アメリカが実力主義だなんて誰が言ったんだろう

みんなが信じたいアメリカン・ドリーム!

大前提として私は純ジャパ成り上がりですが20年近くFortune Top 50に入る米系IT企業だけを渡り歩いています。経歴だけを見ると華々しく見えるものか意外と就職相談とかを受けるのですが、いつも困惑するのが

「いやあ今日の話は参考になりました。アメリカってやっぱり実力主義でいいですね」

というお決まりの一言。 うーん、アメリカの社会はとても現実的かつ効率的で、日本の大企業にあるような無駄で理理不尽な仕事は少ない、あるいはあえてそれを「意味無くね?」って潰すことができる発言と行動の自由はある気はしますし、確かにまだ若い人がそれなりのポジションに出世していったりもするので実力主義に見えるのかもしれませんが、個人的にはこれは結構ミスリードな見解のような気がしています。実際に長くアメリカの社会と付き合っていると必ずしも「実力」では片付けられない独特の価値観みたいなものが見えてくるものです。

あえてぶっちゃけよう、アメリカは学歴、コネ社会である

あくまで個人的意見ですが、ものすごく乱暴に言うと

アメリカの社会は学歴とコネによって相当左右される

と思います。だからみんなものすごく勉強して良い大学に入ろうとしますし、社会人になってからも学歴とコネを求めてMBAに再度入学したりするわけです。ただ、これも「じゃあ良い学校に行っておけば良いんですね」って単純化されると意外と悩ましいものです。

学歴は実力の裏返しであるという前提

日本はなんと国民の80%近くが大学など高等教育に進学するんだそうです。これは他の先進国の平均値から見てもかなり高い割合です。

引用:How Many Students are Expected to Enter Tertiary Education? by OECD

つまるところ日本人は高学歴の人が多い、しかしなぜか国際的に活躍している人は少ない。これは結果的に学歴の価値がちょっと違っていて、

「誰もが高等教育を受ける国では、高等教育は他人より優れた能力の証明にはなっていない」

ということです。つまり、日本人が日本の大学を横並びで卒業しても、特に目立った能力の証拠として受けとってもらえない、学歴として特にプラスの評価になっていないということ。なんか先ほど書いたことを一見ひっくり返すように見えてしまうかもしれませんが、アメリカをはじめ多くの国では高等教育、特にランキング上位の学校を卒業するということは、それだけの競争を勝ち抜ける能力と財力(あるいは奨学金を引っ張ってくるコネ、ロビー力)、すなわち広い意味での「人生の底力」が備わっている、そして他人より努力したことを証明していると見なされているわけで、要は「学歴=実力」という考えが成立しうると。逆にここが弱いといきなり超アウェイなスタート位置なので相当厳しいことになると思うわけです。

これ結構賛成。私が採用面接をしていた時は、どんな学校を卒業したかということをある程度スクリーニングの材料にはしていました。ただし、そこで何を学んだかはあまり気にしていません。なぜならあくまで「その人がそれだけ努力して人より優れた学歴を勝ち取る能力がある」ということをザザッと確認しただけで、実際に会社に入ったら授業で習ったことなんてほとんど役に立たないというのはわかってるからです。

個人的には日本の国内MBAとか、本当に学歴としてもコネとしても国際的には競争力ゼロなので、学費もったいないと思います・・・だってMBAって世界の学歴主義の集大成で、その土俵に乗るためにみんな行くんですよ?

新卒採用だって社内の出世だって学歴とコネが影響する

また、日本ではいわゆる「新卒採用枠」みたいなのがあって一斉にエントリーとかグループ面接とかがスタートしたりするわけですが、欧米の多くの国では特に「新卒限定枠」といった募集は積極的にはしておらず、インターンを経て正社員として採用されるとか、アイビーリーグの学校を企業のリクルーターが訪れて説明会をしてそこで名前を集めたりとかして採用するケースが多いと思います。もうこの時点で、インターンに推薦してくれる先輩が社内にいたり、リクルーターに声をかけてもらえる良い大学にいないと箸にも棒にもかからないという・・・残念ながらこれが現実です。

で、こうやって採用していると何が起こるかというと、特定の学閥とか経歴にものすごく人材が偏ってくるわけです。いやーまるで日本の大企業みたいですね、でもアメリカだってそうです。いま私のfacebookの友達リスト(多くが元同僚や仕事上知り合ったシリコンバレーの有名企業で働く人たち)を見てみると、アメリカ人はほぼUC Berkeley、Stanford、Harvard、MITで占められてたわw ビジネス系は半分以上がTop10以内のMBA卒ですな。当然話しやすい人、一緒に仕事しやすい人、昇進させるにも自分が良くわかっていて稟議に通しやすい人など、大なり小なりこの「似た者同士コミュニティ」が社内の昇進とか仕事のアサインメントにも影響してきます。

これが行きすぎた結果、高度な人材は人気企業に集中したり、給与が高騰したり、格差が広がったりとまあ色々社会に軋轢は産むものでして、あのGoogleですらこんなことで槍玉にあげられてるみたいです。

じゃあ何で実力主義のアメリカン・ドリームは信じられているのか

これは、単純に言ってそういう過去の事例があるからです。

  • 皿洗いからレストランチェーンの総帥になった
  • 学校に行かずに起業して億万長者になった
  • 証券会社のメールボーイから社長までのし上がった
  • ストリートギャングからミュージシャンになってグラミー賞を受賞した

こういったサクセスストーリーがアメリカの社会には少なからず存在するのも事実で、それがドラマチックに流布されることで夢につながってるわけです。ただ、現実は相当厳しい・・・こちらのサイトに結構詳しくまとまってますが、アメリカの社会の格差というのは凄まじいものがあります。

この格差の壁を乗り越えて底辺から頂点にジャンプするというのは本当に狭き門のレアケースだということがわかります。レアだからこそサクセスストーリーとして流布され、それが一人歩きしているというのが本当のところという気はします。

個人的なことでいうと、私だってこれと言った特別なコネや学歴があるわけでもない普通の日本人(むしろ普通以下・・・)だったわけですが、いまでは大きくなった企業が小さい頃にちょっとばかりの自分の得意分野と日本にいる日本人なのに海外を向いて仕事ができるという点で売り込んで、経験とコネを積み上げてこれまでやってきました。また、これまで一緒に仕事をしてきた同僚やお偉いさんの中には、湾岸戦争に従事した元軍人で、そこからピボット(キャリアチェンジ)して経歴を積み上げてきたという人にも会ってきました。この辺りの話は長くなりそうなのでまた別な機会に・・・ただ、下剋上的サクセスストーリーを持つ人の多くは、中央値が低いグループの中で努力してトップを取って、次のレベルのグループにジャンプインするということを繰り返してるのが特徴かなと思ってます。

皿洗いの中にレストラン経営したいという強いモチベーション持って貯金を続けられた人がどれぐらいいたか?メールボーイの中にいつか正社員になってやろうと機会を伺いつつ実務に繋がる勉強をコツコツ続けられた人がどれだけいたか。たぶん実際にはほとんどいないわけです。

どうなんだろう?アメリカは実力主義なんでしょうか?もちろん実力が無ければ何もなし得ないのはどこでも同じだと思いますが、実力の測り方は結構学歴・コネ偏重だと思います。なので「実力さえあればそんなもの要らないぜ」という考え方は単純には成立しづらい、むしろその強さを理解して120%利用してやるぐらいの勢いじゃないと勝負しにくい社会だと常々思っています。

しかしまあこういった学歴とコネにまみれた一部のエリートに社会の富が独占されてきたツケが回って昨今のトランプ騒ぎにも繋がってるわけですが、今後どうなっていくのかはとても興味深いところではあります。(つづく・・・かな?)

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